人材こそ慶應リハの全て
慶應リハを慶應リハ然しめているもの、それは則ち人材である。
人材を育て、超一流のリハ医として全国に、世界に羽ばたかせるためには、充実した指導体制とリファレンスの整った学習環境を提供することは最低限必要なことだ。
卒後臨床研修(慶應義塾大学病院卒後臨床研修センター)
専門医取得
慶應リハでは基本的に全専修医がストレートに専門医資格を取得します。我々はこの10年間で33名の専門医を送り出しています(2016年度現在)が、全員が初回受験でその関門を突破しています。これは全国でも抜きん出た実績で、それは後に述べるような比類なき指導医の質を備えた教育体制に加え、様々な症例を豊富に経験できる連携施設の存在も大きいのです。
ただし、専門医を取得するということは、あくまでも超一流のリハ医になるためのプロセスにすぎません。このページの後半では慶應リハで取り組んでいる超一流を目指す専修医教育システムについても紹介します。ここで注意して頂きたいのは、慶應のプログラムに乗ってただ教わるだけでは超一流にはなれないということです。福澤先生も『賢人と愚人との別は学ぶと学ばざるとに由って出来るものなり』とおっしゃっている通り、
「教わる」ことも大事ですが、自ら「学ぶ」ことはもっと大事です。我々の教育は、学ぶ上で何を学ぶべきかを指し示すことに本髄があります。つまり魚の釣り方を教えることこそが教育であって、手っ取り早く魚を与えることは本人のためにならず、なるべく避けるべきと考えています。
専門医制度の改定
2017年度より新専門医制度がスタートしますが、その詳細な内容は現時点(June 2017)で明らかになっていません。ただし、それが昨年度までとあまりにも大きく変化するとは考え難いです。専門医申請要件は以下の如くで、現状では後期研修4年目の最後に専門医試験があり、5年目の春に専門医を取得できるスケジュールとなります。(個人・家庭の事情等でブランクが生じた場合は先送りとなります。当科では出産などでしばしば経験することです。)
- 医師免許取得後5年以上及び本医学会加入後3年以上を経過していること。(2017年2月末日時点)
- 日本リハビリテーション医学会の定めた日本リハビリテーション医学会専門医制度卒後研修カリキュラムに基づき日本リハビリテーション医学会が認定した研修施設において3年以上の研修を行ったものであること。(2016年11月末日時点)
- 日本リハビリテーション医学会における主演者の学会抄録2篇を有すること。
- 自らリハビリテーション医療を担当した30症例の症例報告を提出すること。
- 自らリハビリテーション医療を担当した100症例の経験症例リストを提出すること。
以下は昨年度までの専門医取得要件である、30例の症例報告レポートに必要な症例のうちわけです。

このように専門医を取得するためには満遍なく症例を経験する必要がありますが、その骨子は新専門医制度が施行されても同様でしょう。
慶應リハではレジデント全員が間違いなく専門医を取得できるよう、新制度がどのような内容になろうともそれに合わせプログラムを適応させます。
慶應プログラムの特徴
慶應リハの後期研修あるいは専門医取得後のキャリア形成においては、専門医の取得とともに、リサーチマインドをもった臨床研究者 (Scientific Physician)の育成にも力を入れており、学位取得を推奨しています。また、大学病院で゙の研修のほか、東京や近県の連携施設に出向しての実地研修を多く取り入れている点にも特徴があります。すなわち質の高い専門医・臨床研究者の養成と、地域医療への貢献を併せ持った研修コ ースであるということができます。
専門医取得への環境 ― 研修施設
以下の施設はいずれも専門医取得要件である、リハ医学会の認定した研修施設です。

詳細は関連病院紹介のページに譲りますが、いずれも対象疾患について特色のある病院です。
1年目から4年目までのローテートの仕方は様々で、以下過去に専門医を取得した専修医のローテートの例を示します。

上記3人でも3者3様ですが、さらに特定の疾患のリハに対し研鑽を積みたいというご希望があれば、以下の関連病院にも年次を相談の上、出向可能です。
慶應リハでは一人一人の学問的興味、大学院進学(専修医の期間に関わらずいつからでも可能です)、経験症例や疾患分野の蓄積のみならず、育児・出産等の事情にも配慮を行い、Tailor Made な教育カリキュラムを提供しています。

専門医取得への環境 ― 学会発表
現在の専門医取得要件の一つに、「日本リハビリテーション医学会における主演者の学会抄録2篇を有すること。」があります。つまり専門医取得に向けて、研究と学会発表は避けては通れません。慶應病院はもとより、各連携施設においてもコメディカルを含め、研究はとても盛んです。もともとやりたいリハの分野があって入局した専修医は、それに関連した研究を行って発表することもありますが、特段興味のある分野があるというよりはリハが好きで専修医になった医師も多いです。そんな場合にも各施設の教育責任者が責任を持ってテーマを提供できるように万全の体制を整えています。あるいは、各施設とも希少な症例も多く集積されるため、症例報告の機会もしばしば経験することでしょう。加えて、リハ分野の関連学会での発表も豊富であり、教室全体での勉強会・予演会を通じて、研究のbrush upや様々な領域の最先端のテーマの学習も通年行うことができます。慶應リハでは2年目以降4年目までほぼ毎年学会発表を行う専修医が多いです。
最近の学会発表にまつわる専修医の研究のテーマの一部を挙げます。
- 動作解析システムを用いた脳卒中片麻痺患者における上肢到達運動の評価
- 慢性期脳卒中患者に対するHANDS治療前後での体性感覚誘発電位の変化
- 脳卒中慢性期患者におけるHANDS療法による感覚障害の改善効果
- 心血管手術後に嚥下障害が遷延したSotos症候群疑いの一例
- 食道がん根治術後患者の誤嚥性肺炎発症に影響する要因について
- 経皮内視鏡的盲腸婁からの順行性浣腸が有用であった脊髄損傷後の障害者スポーツ選手の1例
- ロボットによる定量的評価と既存の臨床尺度との片麻痺上肢における治療反応性の比較
- Becker型筋ジストロフィー患者における嚥下機能の実態
- 慢性閉塞性肺疾患患者における運動耐容能と四肢筋力との関連
- 健常者のプリズム適応時の安静時脳内機能的連関の変化 機能的核磁気共鳴画像(fMRI)による検討
- 回復期リハ病院の脳卒中症例における転帰先に影響を及ぼす因子の検討 栄養スクリーニングに注目して
- 脳卒中患者における両眼立体視による距離認知能力の検討
- 下垂指の電気生理学的検査の特徴 後骨間神経症候群に着目して
また、当科からエントリーする主な国内、国際学会は以下のようなものがあります。
国内学会
- 日本リハビリテーション医学会
- 日本臨床神経生理学会
- 日本脊髄障害医学会
- 国立病院総合医学会
- 日本運動療法学会
- 日本高次脳機能障害学会
- 日本癌治療学会
- 日本リハビリテーション医学会関東地方会
- 日本義肢装具学会
- 日本脳卒中学会
- 日本摂食・嚥下リハビリテーション学会
- 日本体力医学会
- 日本呼吸管理学会
- 日本緩和医療学会
- 日本プライマリ・ケア連合学会 など
国際学会
- ANNUAL MEETING OF ASSOCIATION OF ACADEMIC PHYSIATRISTS
- ANNUAL ASSEMBLY OF AMERICAN ACADEMY OF PHYSICAL MEDICINE REHABILITATION
- INTERNATIONAL CONGRESS OF THE INTERNATIONAL SOCIETY OF PHYSICAL AND REHABILITATION MEDICINE
- ANNUAL SCIENTIFIC MEETING OF INTERNATIONAL MEDICAL SOCIETY OF PARAPLEGIA
- WORLD CONGRESS OF INTERNATIONAL SOCIETY FOR PROSTHETICS AND ORTHOTICS
- INTERNATIONAL CONGRESS OF EMG AND CLINICAL NEUROPHYSIOLOGY
- MEDITERRANEAN CONGRESS OF PHYSICAL MEDICINE & REHABILITATION
- INTERNATIONAL SOCIETY OF ELECTROPHYSIOLOGY AND KINESIOLOGY CONFERENCE
- WORLD CONGRESS FOR NEUROREHABILITATION etc.

教育体制
目標の設定
専修医がプログラムを終えた時にどうなっているべきであるか、ということが決まらなければ具体的な教育内容を決めることはできません。慶應リハでは、『一般目標』 (GIO)と GIOを成就するための『到達目標』(SBOs) ーどのようなことを学び、実践できるかーを用意しています。一例を以下に挙げます。

専修医教育に限らず、当教室では初期研修医教育にも詳細な達成目標を制定し、学習・経験すべき内容を網羅できるように体制を整備しています。
座学とOJT
初期教育は主にこの二つの組み合わせで行われます。座学によるself feedback, feedforwardがOn the Job Training(以下OJT)と相乗効果を発揮して成長を後押しするため、どちらも重要であり、欠かすことはできません。
豊富な座学
1年目レジデントはリハ知識が全くない状態で4月に入局してくることが殆どですので、4〜5月は臨床業務でのOJTに加え、各施設の担当者総出で複数回に分けクルズスを行なっています。

上表は1年目レジデントに提供されるクルズスの一部ですが、これだけではありません。慶應病院では毎週水曜日夕に抄読会が行われており、この時間を利用してグループワークを行い、実際のリハ処方の出し方ー考え方や、VFのピットフォール、高次脳機能評価の実践などを体験することもできます。

OJTを行う体制
1年目レジデントの直属オーベンとの関係性・付与された職務経験は3年目以降のキャリア形成と管理能力の発達に大きな影響を与える可能性が示唆されており、現場指導員=OJTトレーナーの役割は非常に重要です。
若林満・南隆男・佐野勝男(1980) わが国産業組織における大卒新入社員のキャリア発達過程:その継時的分析. 組織行動研究. Vol.6 pp. 3-131
そこで、当教室では専属OJTトレーナー=チーフレジデントの役職を新設し、大学病院では初期研修医とレジデント一人一人に対してくまなくOJTを行える環境を整備しました。また、チーフレジデントの在不在に関わらず多様な業務内容を経験できるように、曜日・コマで研修医担当を割り当て、かつそのスタッフからも内省支援を受けられるようにし、世代・肩書き関係なく教室全体でOJTを支援しています。
また各研修病院にはそれぞれ後期研修プログラムの教育責任者を設置し、指導以外にも専門医取得に向けた症例レポート作成の進捗・学会発表のsuperviseなども責任を持って行なっています。教室の人材が豊富だからこそ教育にここまで注力できるのです。「人材が人材を呼ぶ」。これもまた慶應リハの特色の一つと言えるでしょう。
関根雅泰 (2012) 新入社員の能力向上に資する先輩指導員のOJT行動:OJT指導員が一人でやらないOJTの提案. 中原淳(編著) 職場学習の探求:企業人の成長を考える実証研究. 生産性出版. pp. 144-167
プログラム指導者
責任者
慶應義塾大学病院リハビリテーション科
診療部長 教授 里宇 明元 (日本リハビリテーション医学会理事、専門医、指導医)
初期研修医担当主任 辻川 将弘 (日本リハビリテーション医学会専門医、指導医)
専修医担当主任 村岡 香織 (日本リハビリテーション医学会専門医、指導医)
基幹施設
慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室