神経内科医がリハに興味を持つ。その重要性とリハ医という存在

私は2年間の初期研修を終えた後、神経診察の面白さ、病巣診断における論理的思考に魅せられたこともあり、神経科学に関与する診療科として、神経内科を選択しました。1000床クラスの大規模市中病院で、後期研修医として、common diseaseから非常に稀な疾患まで幅広い経験を積ませて頂いていました。 ある日、患者さんが転院した病院から経過報告を頂く機会があり、重度の麻痺が生じたはずの脳卒中の方が、リハビリを終え自宅退院したという事実を知り、驚愕しました。
重度の麻痺があったのに、嚥下障害で最初は経口摂取も出来なかったのに、どうやって自宅で生活できるまでに回復したのだろう、と。 「リハビリは重要かつ必要である」これまでの私の医師人生で体感的には正しいと感じていたことです。しかし、どこか他人事のような、医師の仕事ではないような気がして、その本質に目を向けようとしていませんでした。この出来事以降、私の中でリハビリ医学への興味が生まれ、より自分の患者さんのリハに注目するようになり、いつしか転科を意識するようになりました。

様々な大学を見学したが、慶應リハを選んだ

リハの道に進もうと思い立ったのは良いものの、私の母校にはリハ医学の講座が存在せず、リハ医のイメージが全く自分の中で想起できませんでした。もちろん、同期の中でもリハビリ科に進んだ医師は一人もいませんでした。そのため意を決してリハビリ医学の講座をもつ大学病院を複数見学することにしました。 どの教室にも特色があり、そこで出会ったリハ科の先生方に率直な質問をたくさんぶつけ、自分のやりたい事を実現するためにはどうするのが良いか、思い悩んだ末に転科を決意しました。 その中で慶應リハ科を選んだ理由は二つあります。
一つは慶應リハ科は日本のリハ医学の礎を築き、全国に同窓生を輩出する伝統ある講座であることです。他科からすればまだまだ新しい専門分野であると思いますが、その中でも経験豊富な指導医の層が厚く、様々な経験を積める関連施設が多くあるという点で、研修環境としては最適だと考えました。 また見学の際、ニューロリハビリテーションの研究室も拝見したのですが、そこで繰り広げられる職種や年齢、経験を超えたdiscussionに圧倒されました。伝統だけではなく革新へと進む熱い思いを持った先輩方がいるということ、それが二つ目の理由として私の背中を後押ししました。

リハ医とは、行動も診られるプライマリケア医

かつて自分もそうであったように、この文章をお読みの皆様の中にはリハビリ科の医師が何をしているか、ご存知ない方も多いと思います。リハビリテーション医学は活動医学と言われているように、臓器でなく(勿論あらゆる細胞・臓器の知識を兼ね備えているのが前提ですが)、その人の行動・生活を診る医学と言われています。 どんな患者さんも皆、一人の生活者です。重度の障害が残ったとしても、今後も進行し悪化していく疾患であったとしても、その患者はこれからの日々を生きていかねばなりません。そこに寄り添えるのが、リハビリ科の医師であると私は思います。
例えば嚥下や歩行など、日常生活で必須の能力が失われた時、治療するためにはどうしたら良いでしょうか。薬の処方一つで乗り切れるような問題ではない事が多く、様々な診療科を渡り歩いても解決を見出せない患者さんもいます。 詳細なリハ診察を行い障害の原因を適切に診断し、それに対して最も効果的な行動介入を判断。訓練方法を指導する事、薬物療法・ブロック等を併用する事、一連の一つ一つは地味に見えるかも知れません。しかし、それ抜きにして、彼らの生活を診ることは出来ないと思うのです。私は将来、生活を診る力を身につけた上で、在宅医療の現場へと進むことを夢見ています。
まだ働き始めたたばかりですが、患者さんを診る視点一つ取っても、これまでの自分の常識とは違うことが多く、毎日新鮮な発見があります。転科入局させていただいた立場ではありますが、指導医の先生方は全く分け隔てなく接してくださり、多様性を重んじる医局の懐の広さ、居心地の良さもありがたく感じています。 これまで田舎暮らしだったため、東京の生活には不安がありましたが、意外と順応することができ、休みの日にはメリハリを持って都会生活を楽しんでいます。
損傷した脳は回復しない、という仮説が否定され久しいですが、リハビリの世界ではまさに今、神経科学としてのブレイクスルーを迎えようとしています。先端研究としての面白さのみでなく、臨床の現場で過去の仮説が覆っていく様を目撃できることは、非常に幸運なことかも知れません。慶應リハには熱い志を持った先輩が数多くおられます。ぜひ一度、見学に来て空気を感じてみて下さい。

大嶋 理

山口大学卒 2017年度入局 慶應義塾大学病院

地域の中核急性期病院で培われた神経内科での知識と経験を左手に、リハで吸収中の活動医学の知見を右手にリハの新領域を切り開く、類稀なるホープ。併診では先輩も教え教わりで医局全体のレベルアップに貢献している。神経内科専門医も取得に向けて勉強中。