リハビリテーション医学教室は、運動障害・認知障害の診断・評価・治療を専門とする学問分野として、神経生理学、運動生理学、神経筋病理学、分子生物学、障害の評価、各種疾患・障害に対するリハビリ、リハビリ心理学、地域リハビリ、リハビリ工学など幅広いテーマに取り組んでいます。
近い将来予定されている長期宇宙滞在においては、微小重力環境下で不可避の筋萎縮、骨粗鬆症などの健康問題に対する宇宙医学的研究にも関与しています。
研究の実績は国内発表にとどまらず、国際的な交流も盛んです。慶應義塾大学理工学部や国内の研究機関とも共同研究を行っています。
【要旨】脊髄損傷患者の大多数は慢性期にあるが、これまで慢性期脊髄損傷は神経幹細胞移植単独では機能回復が得られないとされていた。本研究では世界で初めて、マウス慢性期脊髄損傷モデルに対する神経幹細胞移植とトレッドミル歩行訓練の併用療法が、相加的・相乗的効果によって有意な運動機能回復を導くことを明らかにした。
要旨:TAVI術後入院期間は平均5日であった。FILSは、術前が9.0 ± 0.46 (max 10, min 7)、退院時 8.9 ± 0.55 (max 10, min 7)であり、両時点間に有意差はなかった。術後肺炎を合併したのは1.5%であった。心臓外科治療後の肺炎発生率は6~22%とされるが、より高齢で虚弱なTAVI対象例において肺炎発生は少なかった。
要旨:高齢重度大動脈弁狭窄症患者において、身体フレイルの有無は心機能、腎機能、栄養状態、冠動脈疾患の既往、脳血管疾患の既往、整形外科疾患の既往、低握力と関連していた。
要旨:日本人を対象に脳可塑性を引き出す方法として報告されている 4 連発磁気刺激法( Quadripulse stimulation )につき、白人で効果を検証した。刺激間隔が 5ms の場合、過去の報告と同様に長期増強効果 (LTP) を確認したが、 50ms では長期抑制効果( LTD )は確認されなかった。
要旨:近年、高精度かつ客観性・定量性に優れたロボットがリハビリテーション評価に臨床応用が注目されている。本研究では、外骨格ロボットの一種である KINARM Exoskeleton (BKIN Technologies, Canada) を用いたリーチ課題における定量的指標と、既存の臨床指標との関連について検討した。その結果、 KINARM 上のリーチ課題から得た 12 指標の多くは、 Fugl-Meyer Assessment 上肢 A 項目、 Stroke Impairment Assessment Set-Knee Mouth Test 、 Modified Ashworth Scale 、 Wolf Motor Function Test の一部と有意に相関し、 KINARM 指標の妥当性が示された。また、既存の臨床指標では評価困難な重度片麻痺例でも、 KINARM を用いることで、より詳細な評価が可能となることが示唆された。
要旨:進行性の神経・筋疾患患者において共通して認められる摂食嚥下障害を評価するため、8段階のスケールを作成した( Neuromuscular Disease Swallowing Status Scale; NdSSS )。これを Duchenne 型筋ジストロフィー症患者134名と筋萎縮性側索硬化症患者84名で評価し、信頼性、並存的妥当性、反応性を評価した。いずれも高い信頼性、並存的妥当性、反応性を得られ、進行速度や疾患に関わらず、進行性の神経・筋疾患患者における進行性摂食嚥下障害に広く活用できることが示唆された。
要旨: HANDS 療法における上肢機能の改善は、上肢の相反性抑制の増強、短間隔皮質内抑制 (SICI) の脱抑制を伴っていた。 HANDS 療法による麻痺、痙縮改善の機序には大脳皮質、脊髄の interneuron の変化があることが裏付けられた。
要旨: PC とタッチパネルディスプレイを利用した半側空間無視の検査法を開発した。これにより、机上検査では記録できない空間探索課題中の時間的・空間的な特徴を記録した。自分中心の無視と物体中心の無視の症例を比較して、探索の戦略や反応が異なることが示唆された。
要旨:本研究では、慢性期脳卒中重度片麻痺患者において、陽極経頭蓋直流電気刺激(anodal tDCS)とBrain Computer Interface (BCI)訓練の併用療法の効果を、BCI訓練単独群と比較し検証した。10日間介入した結果、tDCS-BCI群において事象関連脱同期(ERD)は有意に増強し、上肢機能は3か月後にも改善が維持されていた。anodal tDCSとBCI訓練の併用療法は、重度片麻痺患者において有効な治療法となりうることが示唆された。
要旨:本研究では、STEFの計量心理学を、34名の亜急性期脳卒中患者を対象に検討した。Action Research Arm Test (ARAT), Fugl Meyer Assessment (FMA), FIMTMと比較することで、内的整合性、併存妥当性、反応性を求めた。結果、STEFは、亜急性期脳卒中患者に対して、信頼できる評価であることが確かめられた。今後、STEFを用いた研究成果を、世界に発信しやすくなることを期待します。
要旨:脳卒中亜急性期片麻痺患者95名で、安静時基礎代謝(以下、REE)を測定した。平均値は1,271 ± 284 kcal/dayであり、ハリス・ベネディクトの式で予測された値の106.0 ± 17.3%であった。REEはADLの低い患者で有意に低値を示した。体重、FIM、脳卒中障害部位がREEの予測因子として抽出された。これの結果は重点的にリハビリテーションを行う亜急性期の栄養療法を考える上で重要な情報と考えられた。
要旨:脊髄損傷後の歩行訓練が痙縮や異常痛覚を抑制する機序はこれまで明らかではなかった。我々は脊髄損傷モデルラット歩行訓練モデルを用いた解析を行い、歩行訓練により発現が増加する脳由来神経栄養因子BDNFのはたらきで、神経細胞に発現する分子KCC2の発現が回復し、脊髄の抑制性制御が回復することで後遺症である痙縮や異常痛覚が改善することを示した、
説明
脳損傷による半側空間無視の治療法として近年注目されているプリズム適応(順応)療法について、これまでの知見をまとめた総説である。
平成26年3月末にベルリンで開催された第30回国際臨床神経生理学会(30th International Congress on Clinical Neurophysiology of the IFCN: ICCN2014)において、リハビリテーション医学教室の山口智史特任助教(特)がYoung Investigator Awardsの最高賞であるCobb Awardを受賞した。国際臨床神経生理学会は、ヒトにおける脳や脊髄、末梢神経、筋に至る広い範囲の機能とその病態を、生理学的に研究し、臨床医学から基礎医学までの国際的な専門家によって議論することで、健康と疾患の理解を促進することを目的とした学会である。同君は藤原俊之専任講師(現東海大学医学部専門診療学系リハビリテーション科学准教授)の指導のもとに、電気生理学的手法に基づく中枢神経障害による運動障害の評価と新しいリハビリテーション治療戦略の研究を遂行している。今回、陽極経頭蓋直流電気刺激とパターン電気刺激の組み合わせによる、脊髄損傷後の下肢運動障害へのリハビリテーション効果を報告し、1,000題を超える発表のなかで35歳以下の若手に贈られる Young Investigator Awardsの最高賞であるCobb Awardを見事受賞した。受賞演題は、「The combined effects of anodal tDCS and patterned electrical stimulation on spinal inhibitory interneurons and motor function among patients with incomplete spinal cord injury (陽極経頭蓋直流電気刺激とパターン電気刺激が不全脊髄損傷患者における脊髄抑制性介在ニューロンと運動機能に与える効果)」である。陽極経頭蓋直流電気刺激は、頭蓋上から微弱な電流を流すことで脳活動を高めることが知られている。また歩行時に周期的に求心性神経線維に生じる高周波神経活動電位、いわゆる神経発火を模したパターン電気刺激は下肢の相反性抑制を即時的に改善させることが報告されている。同君は、この2つの手法の組み合わせにより、発症後6か月以上の慢性期の不全脊髄損傷患者において、障害された相反性抑制ならびに足関節運動機能を改善する可能性を示した。相反性抑制の障害は、痙縮ならびに動作における同時収縮などの異常な筋活動との関連が報告されており、運動の妨げになる可能性が指摘されてきた。本研究は、この運動障害に対する電気生理学的な根拠に基づいたリハビリテーション手法の効果を明らかにし、中枢神経障害後の下肢運動機能や歩行のリハビリテーションにつながる重要な研究成果と考えられる。本研究は、臨床応用を目指しており、現在、脊髄損傷患者の下肢運動機能と歩行機能に対する長期的な治療効果についての研究を計画している。
平成26年 2月27、28日に横浜市で開催された第29回日本静脈経腸栄養学会学術集会において、当教室の川上途行助教が“JSPEN クリニコ YOUNG DOCTORS AWARD ”を受賞した。受賞式は平成26年 2月26日の日本静脈経腸栄養学会学術集会総会(神奈川、パシフィコ横浜)において行われた。 2月27日に受賞講演「脳卒中片麻痺者の回復期リハビリテーション期における適切な栄養量」が行われ、脳卒中回復期のリハビリテーションにおける栄養分野の新たな知見を広く会員に印象づけた。
要旨: 本研究では、ヒトの使用手選択が身体の状態に適応して変化する過程を明らかにするため、上肢ロボット KINARM を使用して到達運動による運動学習実験をおこなった。実験の結果、片手の動きを阻害するような負荷が与えられた環境では、その手の選択率が低下した。また、最終的に与えられる負荷の大きさは同じにもかかわらず、負荷が急激に増加する場合よりも徐々に増加する場合のほうが、選択率の低下が大きいことが示された。
要旨:SIASを用いて、脳血管障害片麻痺における発症急性期からの運動回復を評価し、NIH Stroke ScaleおよびCNSによる評価との比較、ならびに経時的変化の特性や予後予測に関する検討を行った。SIASと対応するNIH、CNSとの間には高い相関を認めた。しかし、NIH、CNSの同一の得点におけるSIASの得点での広範囲に渡る分散化や3つの評価法の経時的回復過程の特性から、SIASにおいて運動麻痺の回復をより鋭敏に反映することが示唆された.さらに片麻痺の運動回復における予後予測の上で、SIASによる脳血管障害発症早期の評価レベルが、極めて重要な因子であるものと推察された。
平成25年11月14、15日に福岡市で開催された第48回日本脊髄障害医学会において、リハビリテーション医学教室の田代祥一助教(85回)が学術奨励賞 基礎部門を受賞した。本学会は、脊髄障害の病態や治療などに関する研究発表、会員相互及び関連学会の連携協力を推進することを目的に昭和41年に設立された学会で、リハビリテーション科のほかに、整形外科、脳神経外科、神経内科、泌尿器科の医師が参加している。 同君は当教室の大学院生として、生理学・岡野栄之教授(62回)、整形外科学・戸山芳昭教授(54回)ならびに中村雅也准教授(66回)の懇切なご指導のもとに、脊髄損傷の治療に関する研究を行っている。今回、脊髄損傷後のリハビリテーション効果の分子機序の一端を報告し、全273演題中、基礎1題、臨床1題のみに与えられる同学会奨励賞を見事受賞した。受賞演題は、「 脊髄損傷後の運動負荷は, BDNF誘導による長期的なKCC2増加を介して,痙縮と疼痛を抑制する 」である。中等度脊髄圧挫損傷後の運動療法が下肢の痙縮や疼痛を抑制する現象は知られていたが、その分子的背景は明らかではなかった。同君は中等度胸髄圧挫損傷ラット歩行訓練モデルを作製し、痙縮と疼痛の詳細な評価や、組織・タンパク解析を行った。そして運動療法によって発現が上昇する脳由来神経栄養因子 BDNF が、損傷脊髄で発現が減少する KCC2 タンパクを回復させることで、痙縮や疼痛が抑制されることを明らかにした。運動療法による機能回復の分子レベルからの裏付けは、障害に悩んでおられる患者さんを勇気づけるものとしても意義深く、異なる二つの機能障害が少なくとも一部の分子機序を共有していることは今後の創薬などへ繋がりうる重要な研究成果と考えられる。研究グループでは、脊髄損傷へのiPS細胞由来神経幹細胞移植の治療応用を目指しており、同君も本受賞課題の発展に加え、移植後の運動・感覚機能に運動療法が与える影響についても引き続き研究を進めてゆく予定である。
平成25年度、包括脳ネットワーク夏のワークショップにおいて、リハビリテーション医学教室大学院2年の當山峰道君が「若手優秀発表賞」を受賞した。同君は、大学院生として愛知県岡崎市にある自然科学研究機構・生理学研究所の発達生理学研究系・認知行動発達機構部門において、伊佐正教授はじめとする研究員の方々の懇切丁寧なるご指導を仰ぎ、サルを用いた皮質脊髄路損傷回復機序に関する研究を行っている。受賞演題は、”Verified contribution of propriospinal neurons to recovery of hand dexterity after a corticospinal tract lesion in the monkey”で、演者はTakamichi Tohyama, Masaharu Kinoshita, Ryosuke Matsui, Shigeki Kato, Kaoru Isa, Dai Watanabe, Kazuto Kobayashi, Meigen Liu and Tadashi Isaである。この発表内容の抄を以下に示す。「皮質脊髄路損傷後サルの手指巧緻性回復に関わる神経経路を明らかにするため、C5損傷サル2頭に対し、ウイルスベクター2重感染により脊髄固有ニューロン(PNs)に選択的に遺伝子導入を行い、破傷風毒素を発現させることでその神経経路を遮断した。1頭で精密把持回復の障害を、もう1頭で回復後の手指巧緻性が再度障害されることを確認した。これらよりPNsが皮質脊髄路損傷後の手指巧緻性回復に寄与することが示唆された。」これまで、脊髄損傷などによる皮質脊髄路損傷後に手指巧緻性がどのような機序で回復してくるのかは十分に明らかにされてこなかったが、今回同君は脊髄固有ニューロンが巧緻性回復に重要な役割を果たしていることを明らかにした。今後も同テーマの進展を目指し、同研究室において研究を続けてゆく予定である。
要旨:半側空間無視患者において、一次視覚野の反応が高次脳機能障害により影響を受けていることを脳磁図(MEG)を用いて示した。また、無視のタイプにより影響が異なり、高次の視覚認知機能の障害が一次視覚野の視覚処理にも影響していることが示唆された。この研究により半側空間無視のサブタイプの判別にMEGが利用できる可能性が示された。
要旨: くも膜下出血( SAH )患者の遂行機能障害と脳血流( CBF )との関連につき評価を行った。前頭葉 CBF 低下群8名と正常群 14名の2群で遂行機能障害 [ 遂行機能障害症候群の行動評価 (BADS)] 、知能検査( WAIS- Ⅲ)、 ADL ( FIM 、 FAM )を評価した。 BADS score は CBF 低下群で正常群より低下していた。一方、知能検査、 ADL ともに 2 群で有意差を認めなかった。前頭葉の血流低下を認める SAH 後の患者では、知能検査が正常範囲でADLが自立していても遂行機能障害を認めることがあり十分な評価が必要である。
要旨:骨盤内リンパ節郭清を実施した婦人科悪性腫瘍(子宮・卵巣がん)患者 22 人を対象に、下肢表在のリンパ流をICG蛍光造影法によって可視化し、血圧測定の原理で測定したリンパ管内圧(リンパ管駆出圧)をリンパ管機能の指標とし、術前、術後1・2・3・6か月に評価した。患者 5 例に大腿近位部にリンパ液の逆流(皮膚拡散現象)と、リンパ管内圧が上昇したのち下降に転じる傾向が認められた。この特徴的な内圧の変化は、術後のリンパ浮腫発症の早期診断に有用なリスクシグナルと考えられた。
慶應義塾大学グローバル COEプログラム「幹細胞医学のための教育研究拠点」において、平成24年度優秀RA賞( RA reward2012 )を、当教室の田代祥一助教が受賞した。これにより、平成24年12月3日の GCOE Final Symposium において、同プログラム拠点リーダーである、慶應義塾大学生理学 II 教室岡野栄之教授より、賞状と研究資金が授与された ( 写真 ) 。GCOEプログラム「幹細胞医学のための教育研究拠点」は、文部科学省の主導するプログラムで、幹細胞医学研究分野における人材育成と研究進展を目的に、慶應義塾大学にて主催されている。本賞は、本GCOEプログラムへ顕著な貢献があった、優秀な若手研究者若干名に対して贈られる賞であり、 臨床系教室からは唯一の受賞となった。田代助教の本プログラム関連の表彰は、昨2011年度優秀レポート賞に続き2年連続である。 田代助教は、現在、大学院医学研究科博士課程に在籍し、生理学II教室の脊髄再生プロジェクトチームにおいて、ラット脊髄損傷モデルのリハビリテーション効果の分子生物学的解析に関する研究を行っている。
要旨:脳波ベースのブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)は、脳卒中後などの重度の片麻痺患者の治療の新しいリハビリテーションツールである。しかし損傷側の脳半球から安定した脳信号を検出することはしばしば困難で、治療応用できる患者が限られていた。 他方、経頭蓋直流電流刺激(TDC)は、健康者でイベント関連脱同期(ERD)を調節することが報告されており、重度の脳卒中片麻痺患者の BCI 適応を拡大するためのコンディショニングツールとして応用が期待されていた。 本研究では、慢性期の脳卒中片麻痺患者6 例に対し、陽極TDCと偽刺激を加えた際のmu-ERDを評価し、陽極TDCを加えた後のみで、mu-ERDが有意に増加することを示し、上記の仮説を証明することに成功した。
要旨:弱い経頭蓋直流電流刺激( TDC )は、大脳皮質内の興奮性の変化を誘導することが知られている。しかしこれまで、脳卒中患者に対して、陽極 TDC と陰極 TDC がそれぞれどのような影響を持つのかを検討した研究は少なかった。本研究では、7名の脳卒中患者と9名の健常ボランティアに対して、損傷側 ( 健常者では右 ) の一次運動野に、陽極TDC 、陰極TDC 、そして偽刺激を加え、第一背側骨間筋での運動誘発電位とそのサイレント時間を測定した。陽極TDCは、脳卒中患者でも健常者でも共に第一背側骨間筋の運動誘発電位を増加させた。一方で陰極TDCは、興味深いことに、第一背側骨間筋の運動誘発電位を、脳卒中患者では増加させ、健常者では低下させた。サイレント時間の長さには両者で変化は無かった。TDCに対する応答性は脳卒中後に変化することが示唆された。これはTDCの治療応用において重要な知見であると考えられる。
要旨: CHASE療法( contralateral homonymous muscle activity stimulated electrical stimulation )は、電気刺激と両側の運動を組み合わせた、脳卒中後の片麻痺患者の治療のために開発された治療システムである。本研究では、脳卒中後に上肢が麻痺した患者する CHASE 法の具体的な施行方法を検討したものである。 手関節伸展筋である橈側手根伸筋の収縮を評価して、健側の随意的な動きと、麻痺側の電気刺激による動きが同程度になるように設定した。その条件下でのCHASE療法を1日30分で2週間施行した。その結果、全患者で、麻痺側の手関節の関節可動域が改善し、痙性の低下が観察された。更に上肢の運動機能のFugl-Meyerスコアが、 2 名の患者で改善した。CHASE療法は新しい脳卒中重度片麻痺患者の上肢リハビリシステムとして期待される。
要旨:脳性麻痺児(者)における非対称性頭部変形(以下 ASD )の頻度と姿勢異常、四肢・体幹変形との関係を調査した。 ASD を含めた 10 項目のチェックリストを作成し、妥当性、信頼性を検討後、 110 名の脳性麻痺児(者)にて横断的に調査を行った。 44 名で ASD を認め、特に GMFCS のⅣ、Ⅴの重症例でその頻度が多かった。また、 ASD 例では、その ASD のパターン(右後頭部扁平 or 左後頭部扁平)と向き癖、 ATNR の出現、側弯、骨盤挙上、股関節脱臼の方向に関連を認めた。この結果は、今後重度の脳性麻痺児(者)の姿勢管理を考える上で有用な情報である。
平成24年日本臨床神経生理学会奨励賞を当教室の藤原俊之講師が受賞した。本賞は45歳以下の臨床神経生理学分野で顕著な業績があり、将来のさらなる発展が期待される会員に贈られる賞であり、藤原講師のこれまでの臨床神経生理学的手法、特に電気生理学的手法に基づく中枢神経障害による運動障害の評価と新しいリハビリテーション治療戦略の開発に対する数多くの業績が評価されての受賞となった。日本臨床神経生理学会は脳から脊髄、末梢神経、筋に至る広い範囲の機能とその病態を、生理学的に研究し、ヒトの神経系を中心とする複雑なシステムの研究を推進する学会であり、その構成も神経内科、精神科、リハビリテーション科、脳神経外科、整形外科、小児科などの臨床医学の分野のみならず、基礎医学、理工学分野等の多岐にわたる会員 よりなる。リハビリテーション医学の分野からは藤原講師が初めての受賞となった。 受賞式は平成24年11月8日の日本臨床神経神経生理学会総会(東京、京王プラザホテル)において行われ、11月10日に受賞記念講演「臨床神経生理学の応用による脳卒中機能回復に対する新しいリハビリテーション治療戦略」が行われ、科学的なリハビリテーション医学を広く会員に印象づけた。
要旨:脊髄反射や筋活動が歩行に類似した pedaling 運動に合わせて電気刺激を行い、随意運動と電気刺激を組み合わせた場合の脊髄相反性抑制への効果を健常人において検討しました。 Pedaling 運動に電気刺激を組み合わせることで、運動後の脊髄相反性抑制の修飾が認められ、その修飾効果はそれぞれ単独のみと比較して長く持続しました。本研究は、今後の中枢神経障害による歩行障害への治療への応用が期待されます。
要旨:随意運動と電気刺激を組み合わせる治療は、中枢神経系の可塑性を促進し、損傷された大脳皮質においては脳再組織化を促すことが報告されています。これまで、電気刺激中の運動誘発電位( MEP )の記録は、電気刺激によるアーチファクトにより困難であったが、筋音図計という新しい手法に着目し、随意運動と治療的電気刺激中の MEP を、経頭蓋磁気刺激法にて検証しました。その結果、随意運動の主動作筋への電気刺激は促通、反対に拮抗筋への刺激は抑制に作用するとともに、その促通と抑制は随意運動の強度によっても修飾されることが明らかになりました。また運動イメージと電気刺激においても同様の効果があることを、はじめて示しました。これらの知見は,その効果の持続が介入終了後の可塑的変化を導いている可能性を示しています。