本教室 大学院 吉田嵩先生 が執筆した、脊髄損傷に関する再生医療と運動療法に関する研究がeNeuroに掲載されました!
投稿日:2024年5月30日
■掲載雑誌 / Journal
eNeuro
■論文タイトル / Title
Chronic Spinal Cord Injury Regeneration with Combined Therapy Comprising Neural Stem/Progenitor Cell Transplantation, Rehabilitation, and Semaphorin 3A Inhibitor
■著者 / Authors
Takashi Yoshida, Syoichi Tashiro*, Narihito Nagoshi*, Munehisa Shinozaki, Takahiro Shibata, Mitsuhiro Inoue, Shoji Ogawa, Shinsuke Shibata, Tetsuya Tsuji, Hideyuki Okano, Masaya Nakamura(*責任著者)
■内容 / Contents
脊髄損傷は受傷者に様々な後遺症をもたらしますが、脊髄損傷からの時間が経過し、慢性期になると特に難治性を示します。急性期では効果が報告されている再生医療への反応も慢性期では限定的となり、リハビリテーションによるコンディション調整と同程度の効果しか示しません。今回の研究では脊髄損傷ラットを用い、神経幹/前駆細胞移植とリハビリテーションを組み合わせ、さらに第3の治療要素として、神経の軸索の再生を促進するセマフォリン3A阻害剤(Sema3Ai)を用いた併用療法を検証しました。この包括的な治療戦略により、脊髄損傷の損傷中心部における宿主由来の神経細胞とオリゴデンドロサイトの分化が著しく改善し、慢性期の損傷脊髄でも軸索の再生が促進されました。伸長した軸索は機能的な電気的接続を確立し、移植とリハビリテーションの併用療法と比較して、運動能力の有意な向上を認めました。以上から移植、Sema3Ai、リハビリテーションを組み合わせた治療法は、慢性脊髄損傷患者にとって、運動機能を回復させる重要な一歩となる可能性を示すことができました。
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Chronic Spinal Cord Injury Regeneration with Combined Therapy Comprising Neural Stem/Progenitor Cell Transplantation, Rehabilitation, and Semaphorin 3A Inhibitor
Takashi Yoshida, Syoichi Tashiro, Narihito Nagoshi, Munehisa Shinozaki, Takahiro Shibata, Mitsuhiro Inoue, Shoji Ogawa, Shinsuke Shibata, Tetsuya Tsuji, Hideyuki Okano, Masaya Nakamura
eNeuro 23 January 2024, 11 (2) ENEURO.0378-23.2024; DOI: 10.1523/ENEURO.0378-23.2024
https://www.eneuro.org/content/11/2/ENEURO.0378-23.2024
背景)
脊髄損傷は、対麻痺や四肢麻痺、疼痛や痙縮など大きな後遺症を残す疾患です。期待される治療の一つに人工多能性幹細胞由来の神経幹/前駆細胞(NS/PC)を用いた細胞移植療法があります。急性期の脊髄損傷では、動物モデルでNS/PC移植の技術は確立されており、機能回復も実証され、患者さんを対象とした臨床研究も既に開始されています。しかし、慢性期では細胞移植療法は有意な機能改善をもたらさないことが報告されています。
治療が特に難しい脊損慢性期に対して、細胞移植とリハビリテーションの歩行訓練を併用すれば、無治療群と比べた場合には、有意な運動機能の向上が認められますが、細胞移植+歩行訓練の併用群とリハビリテーション単独群との間では有意差は認めず、慢性期患者さんに細胞移植を行う妥当性は示されていませんでした。
一方、脊髄損傷で移植細胞を活かすアプローチの一つとして、「場」の環境が着目されています。傷んだ脊髄の瘢痕組織から産生されるSemaphorin 3A(以下Sema3A)という分子は、軸索伸展を妨げる作用があり、神経が再生しづらくなる原因の一つです。Sema3Aををさらに阻害する治療法は、急性期から亜急性期のモデルで効果が認められています。
以上から、慢性期脊髄損傷の難治性を克服することを目的に、NS/PC移植と歩行訓練、Sema3A阻害剤の3者の併用療法の効果を検証したのが本研究のテーマです。
方法)
慢性期脊髄損傷ラットモデルで「移植+歩行訓練+Sema3A阻害剤」の併用療法(TSR)と「移植+歩行訓練」の併用療法(TR)を比較しました。慢性期に入る42日から馴化と廃用の解消のため、コンディショニング訓練を1週間は行った上で、TSR群とTR群の歩行機能に偏りがないように2群に分け、全てのラットにNS/PC移植を実施。さらにSema3A阻害剤治療のための人工硬膜型の阻害剤シートもしくはプラセボシートを留置する試験介入を行いました。その後、8週間の間、週5日、1日20分の4足歩行をトレッドミル上で行う歩行訓練を行い、運動機能や組織評価を行いました。
結果)
組織評価において、TSR群で損傷中心部の宿主由来の軸索の広がりが広いことを認めました(p=0.039)、電気刺激を用いた損傷部をまたぐ伝導性の確認では、TSR群で検出された波形は大きく(p=0.035)、より多くの情報が伝達できる可能性が示されました。また、運動機能スコアも(p=0.018)、歩幅の長さで見た歩きの質も(p=0.026)、いずれもTSR群で良い結果となりました。麻痺した後肢での荷重ができなかった個体の多くで荷重歩行ができるまでの運動機能の改善が得られ、実用性の高い治療法であることが示唆されました。
結論)
元より慢性期の介入として移植とリハビリの併用効果が認められている中、その併用療法にさらにSemaphorin3A阻害剤を加えることで、重度脊髄損傷モデル動物において実用性のある歩行機能が再獲得されました。慢性期脊髄損傷の患者さんの治療の実現化につながることを期待しております。